2024.02.08. 1年

私が警察に被害届を出してから、1年が経った。そのとき初めて目撃者でも被害届を提出できることを知った。

 

まだ、かなり鮮明にあの瞬間を覚えている。嫌な記憶すぎて自然と記憶を消そうとしているのとショッキングすぎて記憶がこびりついて離れないのがぐちゃぐちゃで、覚えている理由は自分でもよくわかっていないけど。平然とそれをやってのけた瞬間、赤い丸が四角くなった瞬間、私が気づいた瞬間、私がイヤホンを外した瞬間、全部を覚えている。そのあと、私が掴んだ手首の感触、震えていた私の手、震えていた私の喉、真っ白になった頭をどうにか動かして絞り出した言葉、胸のポケットにしまった携帯。異様なまでに震えていた、私と犯人。

その後あの人は走って逃げた。自分の罪をなかったことにしたかったのか、今の生活を壊したくなかったのか、年下の女に犯行を見られていたことが悔しかったのか、わからなかった。じゃあするなよ。逃げるならするな。バレないと思ってた?バレなかったら、罪じゃないから?お前のせいで、あの子と私は、深く深く傷ついたのに。お前の一瞬の衝動のせいで、私は何ヶ月も苦しみ続けて、今もフラッシュバックが起きるのに。遠くなる背中の映像は今でも夢に出てくることがある。あのとき、私が違う行動をとっていたらあの人を捕まえられていたかもしれない、と思う。

 

真実も、時と場合と線引きのせいで本当にならないことがある。逃げて逃げて、罪から走って逃げたあいつは今もこの世界のどこかでのうのうと暮らしている。もしかしたらこの罪のことを、忘れて生きているかもしれない。わたしがこの目で見た真実は、まだ本当にはなっていない。

わたしが見たもの、防犯カメラに映っていたもの。それだけ。それだけの真実。真実だけじゃ、誰かを裁けない。その誰かは逃げたから。なんで、逃げたんだろうね。ねえ、あなたは今どこで何して生きてるの?今も苦しみながら生きてるの?それともあの罪のこと忘れて暮らしてるの?あなたが手に入れたそれ、どうしたの?捨てたの?使ってるの?売ったの?別に、どれをしていても許せないし、許されないけど。私はあなたのこと、一生許さない。

 

どうして声をかけたのか、今でもわからない。受け売りみたいだけど本当に勝手に体が動いていた。あの子を守りたかったからとかそういうのじゃなくて、あんな卑劣な人間が罪から逃れて生きていくのが嫌だったのかもしれない。後からあの瞬間私は「こわかったんだ」と自覚した。「こわかったね」と言ってくれた人は一人しかいなかった。「まずは自分のことを守りなさい、大切にしなさい」と言ってくれたのはその人ともう一人だけだった。

目撃者__犯罪を告発した人間__は、強い人間だと思われるかもしれない。でも私は、私の場合は、あの瞬間、とても怖かったんだ。

目の前で犯罪が横行したこと。「気をつけて」と言われていたことが目の前で起こったこと。あと一瞬私が早かったら、私が被害者になっていたかもしれないこと。犯人がそのまま逃げたこと。声をかけたことで、私が犯罪に巻き込まれていたかもしれないこと。そして今も、犯人が捕まっていないこと。こわかった。

 

あれから、1年が経った。犯人は、捕まっていない。

 

すこしでも、被害に苦しまれる方が少なくなることを祈っています。そして、犯罪の瞬間を目撃したあなたに「こわい気持ちをした」ということをわかってくれる誰かが寄り添ってくれることを、あなたがどうか自己嫌悪に苛まれないことを、祈っています。